会うべき相手はメアリだった。
 父は、メアリが出ていくときに、私のことをメアリに託していたのだ。
「離れを掃除してくれていたのはあなたでしょう? ごめんなさい……あなたまで巻き込むことになってしまって」
 私はメアリに詫びた。
「いいえ、こうなることは覚悟していましたから。私よりもマリア様の方が……」
 メアリの声は、涙声になっていた。


 聞けば、この農場はメアリの遠縁にあたる者が経営しているそうだ。そして、その縁でここで働かせてもらっているという。
 メアリと相談し、次期聖女だったという身の上は明かさない方が良いという結論に至った。
 幸いなことに、現在、人手不足で、住み込みの使用人を探しているというとのことだった。そこで、私は、仕事を探しているメアリの元仕事仲間という立場になり、農場に置いてもらうこととなった。


 こうして私の農場での、使用人としての生活が始まった。宮殿での生活とは正反対で、私にとっては戸惑うことばかりであった。
 作業内容は、ひたすら肉体労働だった。朝早くから暗くなるまでずっと野外で働き、作業が終わるころには口もきけないほど疲れ果ててしまっていた。
 宮殿にいた頃は、空き時間があると、読書をしていたが、疲れのせいで、読書をしようという気にはとてもなれなかった。
 また、食事にしても、素材がそのまま煮込まれただけのスープや、固くてスープに浸さないと食べられないようなパンが出された。
 長い時間をかけて丁寧に下ごしらえされた、口当たりも柔らかく、見た目も美しい食事しか食べてこなかった私は、食事の粗末さに非常に驚いた。後でメアリに聞いてみると、この農場は経営状況が比較的良いので、これでもましな方だと教えられた。