「……あの、お父様、どういうことでしょうか?」
 私が父に言われたことを理解できずにいると、
「ここにいてはお前の身に危険が及ぶ。一緒にここから逃げるんだ」
 と父に急かされた。
「危険? 逃げる? お言葉ですがお父様、私は聖女になる身。国と民を見捨てるようなことはできません。それはお父様もご存じのはずです」
 次期聖女として至極真っ当なことを、私は父に言った。
「残念だが……お前が聖女になる可能性はなくなった。私もお前も、ここでは不要な人間だ。わかったなら早く一緒に来るんだ」
 父は、私の手首を掴み、外へ連れ出そうとした。
「行けません! お父様!」
 強く拒否すると、父は残念そうな顔をした。
「そうか、お前の決意はわかった。だが、約束して欲しい。いざとなったら、自分の身の安全を一番に考えること」
「……はい」
 頷く私に、父は紙切れを握らせた。
「もしもの時はここに行くんだ」 
 それだけ言い残すと、父は私に背を向けた。
「あの、お父様……」
 私は無意識のうちに父に声をかけていた。もう父には会えないような気がしたからだ。
「お父様もお元気で……」
 もっと他に言うことはあるだろうが、思い浮かばなかった。
「お前には父親らしいことを全くしてやれなかった。次に会う時は、普通の父娘として会えるといいな」
 立ち去る父の後姿を見ながら、父について行くべきではなかったかと私は少し後悔した。