「だけど、レイ。このままいくと、ヘレナは一年後にはカルロス殿下の妃だ。妹が傷つく所を見たくはない。お前だってそうだろう?」

「当然です! お嬢様には、世界中の誰よりも幸せになっていただかなければなりません。愚かな誰かのせいで不幸になるなんて、あってはならないことです」


 どうやら私も酔い始めているらしい。身体が燃えるように熱かった。目を瞑ると、ヘレナ様の笑顔が脳裏に浮かぶ。私はそっと首を横に振った。


「……というか、おまえはこのままで良いのか? 一年後にはヘレナは嫁に行ってしまうんだぞ? その後は一体どうするつもりなんだ?」


 そう言って侯爵は小さく首を傾げた。本当はこの辺りを一番確認をしたかったのだろう。私は苦笑いしつつ、ゆっくりと頭を垂れた。


「お嬢様が王太子妃になられた暁には、旦那様に推薦状を書いていただきたいと思っております。少しでもお嬢様のお側に居られるようお嬢様付きの騎士に志願したいのです」


 それは何年も前から描いていた、私の将来設計だった。
 ヘレナ様から離れるなんて考えられない――――ヘレナ様の笑顔が、ヘレナ様の幸せが、私の全てだ。そのためだけに私は生きている。けれど、カルロス殿下と結婚をしたら彼女が帰る場所はこの屋敷ではなくなってしまう。顔を見ることも、言葉を交わすことも、難しくなってしまう。


(そんなの、耐えられるはずがない)


 いつだって――――今この時すらも、会いたくて堪らないのに。
 甘え下手な彼女が、本心を見せられる相手は私でありたい。たとえ私自身の手でヘレナ様を幸せにすることは叶わなくとも、彼女を護っていきたいとずっとずっと、そう思ってきた。


「――――――まったく! おまえは本当にブレない奴だな」


 侯爵はそう言って声を上げて笑った。私は微笑み返しつつ、そっと目を細める。