それからヘレナは、屋敷の中を自由に見て回った。
 広々とした居間には、座り心地のよさそうなふかふかしたソファが並んでいる。木のぬくもりが感じられそうな可愛らしいテーブルに、レースで編まれたクロスが敷かれ、大きな窓からはよく手入れされた庭が見渡せる。


(なんだか、いつまでも座っていられそう)


 そんな感想を抱きつつ、ヘレナは次の部屋へと向かう。

 ダイニングルームは白を基調とした部屋だった。エントランスや居間のアットホームで可愛らしい印象とは打って変わり、どこか背筋の伸びるような高級感が漂う。かといって、決して居心地が悪いわけではなく、美味しく食事をするための配慮が至る所に施されているのが分かった。
 元々ヘレナがダイニングルームに長居することは無いし、生活にはメリハリをつけるべき――――そんなレイの考えが強く反映されたもののようにヘレナには思えた。

 その後もヘレナはお風呂、トイレ、客室と屋敷探索を続けていく。
 初めての場所というのは緊張するものだが、同時にワクワクもする。童心に帰ったような気持ちで、ヘレナはあちこちを見て回った。


(だけど不思議)


 初めて訪れた気がしない程、親近感と既視感が湧く。とはいえ、ヘレナは生まれてこの方、国外に出たことがない。ここを訪れるのは間違いなく初めてのことだ。


(それに)


 やはりお屋敷には、これまで誰も住んだ形跡が見当たらなかった。定期的に誰かがやって来て掃除等のメンテナンスをしているという感じもしない。つい先日出来上がったばかり――――そんな印象を受けた。


(本当にレイは……)