「――――こんにちは……聖女様」

「はい! 初めまして、ですよね? お兄さんみたいに綺麗な人、一度見たら忘れられないもの」


 そう言ってヘレナ様はニコニコと笑う。お祈りをしていた時はひどく大人びて見えたが、この時のヘレナ様は年相応の可愛らしい笑みを浮かべていた。生まれて初めて経験する胸のざわめきを、私は咳払いをして誤魔化した。


「仰る通り、お会いするのはこれが初めてです。
……申し訳ございません。もしかして、私がじっと見ていたせいで落ち着かなかったですか?」

「ううん、そんなことないわ。何となくお兄さんとお話がしてみたかったの。神様に『そうしなさい』って言われている気がして」


 ヘレナ様はそう言って満面の笑みを浮かべた。私は思わずヘレナ様の目の前に跪く。そうすると、先程よりもずっとずっと近くにヘレナ様を感じられた。仮にも私はストラスベストの第二王子。こんなことをするのは初めての経験だ。けれど、そうすることが当たり前のように感じられたのだ。


「でしたら私は、神に心から感謝いたします――――今日ここで、あなたに出会えて良かった」


 そう言って私はヘレナ様の手を握った。本来ならば、断りを入れずに手を握るなど無礼な振る舞いだろう。けれど私は、言葉では表しきれない感謝と敬愛、感動をヘレナ様に伝えたかった。ヘレナ様は空色の瞳を丸くし、私のことを見つめていた。驚かせてしまったと分かっているが、どうしても止めることができない。


(これで私は、この国で頑張っていける)


 ヘレナ様は私に力をくださった。祖国から捨てられ、本来の身分を失った私には何の価値もない。あとはもう、死んだように生きていくだけ――――そう思っていた私に、生きる気力や勇気、幸福を与えて下さった。そのことがあまりにも嬉しい。