私がヘレナ様と出会ったのは今から十年前――――十三歳の時のことだった。
 祖国ストラスベストから隣国の王都へと連れて行かれた私は、一人途方に暮れていた。土地勘も無ければ、こちらの国には一人も知り合いがいない。


(さて、これからどうしていこう)


 幸いなことに、ある程度の金子は持たされている。食うには困らないだろうし、しばらくは宿に泊まることも可能だろう。立ち止まっていても仕方がないと思い、私は人の流れに沿って歩いて行った。


(思いのほか小さな街だな)


 それが私が抱いた、この国の第一印象だった。一時間もあれば王都の隅々まで巡ることができるし、城は強固に護られているが、ストラスベストよりは小さく、どこか歴史を感じる建物だ。人と人の距離感が近く、どこかアットホームな雰囲気がする。
 そうしている内に、私は街の中央に位置する神殿へと辿り着いた。古く、荘厳な建物だ。観光がてら入ってみると、中には沢山の参拝者が訪れていた。


(なんというか――――心が洗われるようだな)


 ストラスベストにも神殿は存在するが、圧倒的に空気が違う。凛と澄んでいて、かといって急かされるような感じではなく、不思議と心が落ち着く。元々信心深くはない私ですら、神の存在を感じてしまう。これから先、己に待ち受けるであろう困難を忘れてしまう程、温かな気持ちに包まれたその時だった。