「ところで、ヘレナ様。私に内緒で兄の……イーサンとお会いになったのでしょう?」


 その時、レイが徐にそんなことを切り出した。ヘレナの心臓がドキッとひと際大きく跳ねる。チラリとレイを覗き見れば、彼は悪戯っぽい表情で微笑んでいた。


「酷いですね……もう浮気だなんて。この先が思い遣られます」

「ちっ……違うわ! 私だったらお兄様の病気を治せるかもしれないって思って、それで――――――あっ!」


 ヘレナは口を開けたまま、目をパチクリさせる。


(しまった……! レイには言うつもり無かったのに!)


 ダラダラと汗を掻きつつ、ヘレナはシュンと項垂れる。レイはそんなヘレナの頭を撫でつつ、クスクスと笑い声を上げた。


「どうして落ち込んでいらっしゃるんですか?」

「だって……お兄様にお会いしたことも、病気を治したことも、全部レイにバレちゃったもの」

「バレて困ることは無いでしょう? 良いことなんですから。もしかして私が浮気って言ったこと、本気にしています?」


 困ったように笑うレイに、ヘレナは首を横に振る。


「それは……冗談だって分かってるわ。だけど――――――」


 ヘレナは躊躇いがちにレイを見つめつつ、ほんのりと唇を尖らせる。レイは穏やかに目を細め、ヘレナを自身の膝に乗せた。


「何故兄を治したのか――――その理由を教えていただけますか?」


 そう言ってレイはヘレナを見上げる。その途端、ヘレナは頬を真っ赤に染め、プイと視線を逸らした。


「――――――それ、わたしが聞かれたくないって分かってて言っているでしょう?」

「……と仰いつつ、本当は話したいんじゃありませんか?」


 二人は見つめ合いながら、ドキドキと心臓を高鳴らせる。ヘレナは観念したようにため息を吐くと、レイの額に自身の額を重ねた。


「レイのお兄様が死んでしまったら困るから」

「ん?」


 首を傾げつつ、レイは楽しそうに笑っている。ヘレナはギュッと目を瞑ると、再びレイの瞳を真っ直ぐ見つめた。