カルロスはというと、雷に打たれたものの命に別状はなく、ストラスベスト側が用意した馬車に載せられて強制送還された。当然、彼の企みは全て明るみになり、国王はカンカンに怒った。廃嫡はもちろんのこと、然るべき処罰が検討されている所らしい。


(処罰って所が恐ろしいけれど……)


 ヘレナが全容を知る必要はないだろう。ふぅ、とため息を吐きつつ、前を見据える。


「当然のことだが、君の名誉は私が全力で回復させてもらう。
聖女ヘレナ――――君の名前はこれから先、何百年にも渡って人々に語り継がれるだろう」


 国王はそう言って恭しく頭を下げる。
 名誉など必要ない――ヘレナ自身はそう思うものの、これまでずっと、ヘレナのことを支えてきてくれた人々がいる。彼等のことを想えば、褒美も名誉もありがたく受け取るべきなのだろう。「光栄です」と口にしつつ、ヘレナは大きく頷いた。


「ところで――――本当に行ってしまうのかね? 今まで通り、兄と……マクレガー侯爵と暮らせば良いではないか」


 その時、国王が躊躇いがちに本題を切り出した。

 今日、ヘレナは城に国を辞すための挨拶に訪れた。王都が落ち着きを取り戻し、泉の水も元通りになったからだ。
 今後は、ふた月に一回程度帰国し、聖女として祈りを捧げる予定にしている。それで問題が起こるようなら頻度を見直す必要があるが、恐らくは大丈夫だろう。


「申し訳ございません、陛下。けれどもう、決めたことですから」


 ヘレナは困ったように笑いつつ、小さく首を横に振る。決意に満ちた眼差し――――説得は不可能だろうと国王は悟った。


「あちらに、君の幸せがあるのかい?」


 尋ねながら、国王はどこか悔し気な表情を浮かべる。ヘレナは顔をクシャクシャにしつつ「はい!」と答えた。