「――――もしかしてレイ、妬いてる?」


 まさかと思いつつも、ヘレナは尋ねる。返答はない。図星のようだった。ランプの灯りに照らされたレイの顔が紅く染まる。ヘレナは唇を綻ばせつつ、ギュッとレイに抱き付いた。


「わたしが想っているのはレイだけよ。国に戻ったとしても、それは絶対に揺るがないわ」

「――――――――――殿下が再度婚約を申し出て、陛下がそれをお許しになったらどうなさるおつもりですか?」


 自分でも女々しいと思いつつ、レイは尋ねずには居られない。ヘレナはふふ、と笑いつつ、腕に力を込めた。


「丁重にお断りするわ。こんなことがあったのだもの。その位は許してもらえる筈よ?
わたしには他に愛する人がいます! 殿下の元にはもう戻れません――――って」


 その瞬間、レイがヘレナの唇を優しく塞いだ。ランプの灯りが、重なり合った二人の影を照らし出す。ランプの中でじりじりと揺れる炎は、まるで二人の心のように温かく、柔らかく、それでいて力強い。


「レイモンド様」


 その時、馬車の扉がコンコンと鳴った。ニックの声だ。
 レイは扉を開けると、「来たのか?」と尋ねた。


「はい。僕は顔を存じ上げないので定かではありませんが、恐らくあれがカルロス殿下かと」


 その言葉に、ヘレナの緊張感が高まる。


「では参りましょうか」


 レイはそう言って、穏やかに微笑みかける。コクリと首を縦に振り、ヘレナは馬車を降り立った。