「元々あちらとストラスベストの兵力の差は明らかですし、国が大変な状況なのに、そんなことに人手を割けるわけがありません。国王が許可するとも思えませんが、あの馬鹿王子なら勝手に兵を動かしかねないですね。
因みに、あちらは今、どういう状況なのですか?」

「えっ? えーーと確か、聖女が居なくなるとともに大きな地震が起きて、怪我人と病人が多発して、何故だか植物の育ちも悪くなって、このままじゃ飢饉が起こるとかなんとか……」

「そんな――――――!」


 ヘレナは思わず声を上げる。顔色が真っ青に変わっていた。レイはヘレナの背を擦ってやりつつ、ニックのことを見る。


「カルロス殿下は本当に、今夜この街に来るのですか?」

「えぇ、諜報員の情報が正しければそうなります。僕の役割は、カルロス殿下の見張りってやつですね。もしも今夜変な動きをするようなら、容赦なく切り捨てますけど!
……本当は事前に件の聖女を見つけられたら良かったんですけどね。隣国が困っているのは事実でしょうし、戦争も回避できる。おまけに盛大に恩を売れますから」


 ニックはそう言って小さくため息を吐く。ヘレナは目をぱちくりさせると、そっと右手を上にあげた。


「あの……実はわたしが、件の聖女なんですけど…………」


「えっ…………えぇえ!?」


 驚愕に目を見開くニックに、ヘレナは小さくため息を吐いた。