「それなんですけどね! 実は最近、隣国のカルロス殿下がどうにもきな臭い動きをしているらしいと、諜報員から情報が入ったんです。
隣国は今、カルロス殿下が追放した聖女を探しているんですが、どこを探しても見つからないらしくて。おまけに、その聖女のことを我が国が隠し立てしていると勘違いしていて、カルロス殿下はそれを理由にストラスベストの侵略を画策しているらしいんです」

「…………へ?」


 驚いたのはヘレナだった。目を丸くし、大きく首を傾げて、ニックのことをまじまじと見つめる。


「冗談、ですよね?」

「冗談だったら、わざわざこんな所に出向きません。
カルロス殿下は今夜にも数人の騎士を連れて、この街を下見に来るようです。
なんでも隣国は、聖女が居なくなったことで王都が大変なことになっているらしくて。早く連れ帰らないと、かなりやばい状況らしいですよ?
そのきっかけを作ったのがカルロス殿下なもんだから、あちらの国王は相当お怒りみたいで。廃嫡はもちろん、どんな処罰が待っているか分からないらしいんです。
だから、名誉挽回のために手柄を立てたいんだろうなぁと」

「…………馬鹿ですね」


 そう口にしたのはレイだった。盛大なため息を吐きつつ、眉間に皺を寄せている。