ヘレナとレイは居住まいを正し、改めてニックと向き合う。ニックはコホンと咳ばらいをしつつ、恭しく頭を下げた。


「ご事情は分かりました。経緯については色々と思う所はございますが、レイモンド様が納得されているならば、僕は何も申し上げません。
けれど、これから如何しますか? レイモンド様が生きていらっしゃることを知ったら、陛下はきっとお会いになりたがるでしょう。僕としても是非、城に戻って来ていただきたいのですが……」


 ニックがレイの顔を覗き込みつつ、そう口にする。


「いいえ……冒頭にも申し上げました通り、今の私は『レイモンド』ではございません。お嬢様の執事『レイ』です。
ですから私は、陛下にお目にかかるつもりも、城に戻るつもりもございません」


 そう言ってレイは首を横に振り、穏やかに目を細めた。


「レイ……本当にそれで良いの?」


 尋ねつつ、ヘレナは唇を尖らせる。ヘレナに気を遣っているのではないか、本心を話せないだけなのではないかと思ったのだ。


「もちろんです。私の望みはお嬢様の側に居ることですから。
第一、追放されてすぐならまだしも、大人になってからは幾らでも連絡の取りようはあったのです。けれど、私はそうしませんでした。自分の意志で『レイ』であることを選んだのです」

「……そっか」