「ここがレイモンド様のお屋敷ですか~~~~まさか国内にお屋敷を構えていらっしゃるとは思いませんでしたよ! どうして連絡してくださらなかったんですか?」


 屋敷に入るなり、男性は一気にそう捲し立てる。


「私の屋敷ではございません。こちらにいるお嬢様のお屋敷です。それに、ストラスベストには先月越してきたばかりですから」

「そうなんですか。それにしても、レイモンド様が『お嬢様』って……似合わないけど似合うなぁ~~!
で、どうして執事ごっこなんてしてるんですか? っていうか、今まで一体どこに――――」

「ごっこではなく、私はお嬢様の執事です。十年間、お嬢様の執事として暮らしてきました。
ですから、あなたの知る『レイモンド』はもう、この世には存在しません。
さぁ……こちらを飲んだら、お引き取りください」


 そう言ってレイは、男性へ湯気の立ったティーカップを手渡す。ずっと会話を続けていた上、いつ、どこで、どうやって準備したのかも分からない、流れるような動作だった。応接室へ案内する気はないらしく、玄関で立ったまま応対を続けている。


「えぇーーーー!? そりゃぁないでしょう! 十年ぶりの再会ですよ? 聞きたいことが色々あるのに」

「残念ながら、私の方は話したいことがありません」

「待ってよ、レイ。わたしは聞きたいな、レイの話」


 そう口にしたのはヘレナだった。レイのことを見上げつつ、ほんのりと首を傾げている。


「お嬢様……」


 どこか甘えるような仕草。しばらく逡巡したものの、レイがヘレナのお願いに抗えるはずもない。男性を応接室へ案内し、渋々といった様子で自分もソファに腰掛ける。ヘレナもレイの隣に座りつつ、ドキドキと胸を高鳴らせた。