「ヘレナ様は、私が他の女性と結婚しても良いのですか?」


 レイの問い掛けにヘレナの心臓がドクン、ドクンと鳴り響く。


(言えないわ)


 言えばレイに、自分がどれだけ自分勝手な人間か知られてしまう。ヘレナは彼に幻滅されたくは無い。この質問に答えるわけにはいかなかった。


「――――――質問を変えます。ヘレナ様はカルロス殿下から婚約を破棄された時、どう思いましたか? ご自分の代わりにキャロライン様と結婚すると言われて、悲しいと思いましたか?」


 レイはヘレナを真っ直ぐに見つめ、そう尋ねる。ほんの少しだけ考えた後、ヘレナは首を横に振った。


「いいえ。正直、婚約破棄については何とも思わなかったわ」


 口にしながら、ヘレナは小さく息を吐く。
 カルロスとの婚約は、ヘレナがまだレイと出会う前――――十年以上前に結ばれた。生まれながらの聖女だった上、侯爵令嬢であったヘレナは、妃に最適な娘だった。互いの気持ちが伴わない政略結婚。おまけに、短気で冷たいカルロスとのんびり屋のヘレナの相性は、お世辞にも良いとは言えなかったからだ。


「では、私が他の女性と一緒に居るのを見るのは? 結婚するのを想像したら、どう思いますか?」

「そ……れは………………」


 その質問の答えを、ヘレナは既に持っている。つい先程、経験したばかりだからだ。けれど、口にするのはどうにも憚られる。レイは小さく息を吐き、ヘレナの瞳を覗き込んだ。