「…………そうですね」


 レイが一言、そう口にする。途端にヘレナの胸がズキンと痛んだ。


「本当にごめんなさ――――」

「少し考えたら、あれが紛れもない私の本心だと分かる筈なのに」


 そう言ってレイは、ヘレナのことを抱き寄せた。


「ヘレナ様……」


 熱っぽく名前を呼ばれた上、ギュッと強く抱き締められて、ヘレナは目を丸くする。全身が熱を帯び、ドクンドクンと大きく脈打つ。喉に何かがせり上がって、息すらまともにできない。


「レイ?」


 尋ねつつ、ヘレナには、レイがまるで知らない男の人のように思えた。
 彼がいつも付けているコロンの香りが、レイ自身の香りと溶け合って、全くの別物に感じる。スラリとした細腕は、とても逞しく力強い。広く厚い胸板から、ヘレナに負けず劣らず速い鼓動の音が聞こえてくる。


(こんなレイ、わたしは知らない)


 どれもこれも、こんな風に近づかなければ知らなかったことだ。戸惑いつつ、ヘレナはゴクリと唾を呑む。レイはヘレナの肩口に顔を埋め、熱い吐息を吐き出した。