(これまでお祈りを欠かしたことは無いけれど、もしかしたら私がいなくなっても、国には何の影響も無いのかもしれないわね)


 王太子であるカルロスが平気と言うなら、多分そうなのだろう。安堵感を覚えつつ、ヘレナはそっと微笑む。けれどその時、ふとあることが気にかかり、ヘレナはカルロスを見つめた。


「ですが殿下……陛下はこのことをご存じなのですか?」


 尋ねながら、ヘレナは小さく首を傾げる。
 カルロスの父親――この国の国王はヘレナのことを、殊の外可愛がってくれた。聖女の力を信じ、重用していたのも他ならぬ国王だ。陛下は今、国内の視察に出掛けている。挨拶すらせずに勝手にいなくなって良いものか――――そう考えたのである。


「そんなこと、貴様が気にする必要はない」


 カルロスは盛大なため息を吐きながら、騎士達に向かって手を振った。すぐに出口に張り付いていた騎士が二人、ヘレナの背後に回り込む。迫りくる威圧感にヘレナは小さく息を呑んだ。


「さっさとこの女を連れていけ!」


 カルロスは騎士たちにそう命じる。促され、ヘレナはゆっくりと踵を返した。


(……そう言えば私、これからどうやって生きて行けば良いのでしょう?)


 ふと、そんな疑問が頭を過る。騎士達に部屋から連れ出されつつ、ヘレナはそっと肩を竦めた。