「いえ……妹は屋敷に立ち寄ることも許されず、着の身着のまま隣国へと連れていかれました。私が事実を知らされたのも全てが終わった後でしたし、あれ以降、妹の消息は分かりません」


 言葉に棘を含ませつつ、マクレガー侯爵はそう告げる。


「そうか」


 そう言って国王は大きなため息を吐き、両手で顔を覆った。先程よりもなお、顔色が悪い。


「妹が、何か?」


 侯爵は尋ねつつ、窓の外を眺めた。文官や騎士達が病人への対応に追われている。バタバタと城と王都を行ったり来たりしている様子に、胸が痛んだ。


「――――――此度の地震や病人の多発―――――――私はこれを、神の怒りだと考えている。罪のないヘレナを追い出したから……彼女がいなくなったから、こんな事態が巻き起こった」


 そう言って国王は、懐から小さな小瓶を取り出す。中には濁った色の液体が入っていた。


「マクレガー侯爵……これが何か分かるかね?」

「……いえ」


 侯爵が首を横に振ると、国王はまた、大きなため息を吐いた。


「これはヘレナが清めてくれていた泉の水だ。彼女が生まれて以降、この泉には不思議な力が宿るようになった。病を癒したり、人々の心を穏やかにしたり――――この泉で育てられた植物は皆、育ちも良かった。
しかし、彼女が居なくなってから、泉の水は濁った。時を同じくして地震が起き、沢山の人々が病んだ。
じきに、泉の水で育てられた植物にも影響が生じるだろう。このままでは大規模な飢饉が起こり、事態は今の比ではなくなってしまう」


 国王の言葉に、カルロスは眉間に皺を寄せる。


「今以上……ですか」


 そう言ったきり、侯爵は言葉を失った。