「マクレガー侯爵! 来てくれたのか!」


 謁見の間に通され、男性――マクレガー侯爵はゆっくりと頭を下げる。豪奢な部屋には国王と、彼の息子であるカルロスがいた。


(あいつがヘレナのことを……)


 侯爵は唇を噛みつつ、ふつふつと燃え滾る怒りを腹の中で押し殺す。カルロスこそ、ヘレナに無実の罪を着せ、国外へ追放した張本人だった。


(よくもまあ、のうのうと顔を出せたものだ)


 今にも飛び掛かりたい気持ちを必死で押さえ、侯爵はギュッと拳を握った。


「マクレガー……君の妹――ヘレナの件はすまなかった。私がいないタイミングで、まさか息子がこのようなことをしでかそうとは――――――」


 国王はそう口にし、真っ青な顔をして項垂れる。カルロスはカッと目を見開き、唇を真一文字に引き結んでいた。直立不動――――瞬き一つしない彼を、侯爵は憎々し気に睨みつける。


「カルロス」


 身体の芯まで震えそうな冷たい声音で、国王がカルロスを呼ぶ。カルロスは数秒間、如何にも不服そうな表情で侯爵を見つめていたが、父親の剣幕を目にし、ややしてゆっくりと頭を下げた。形ばかりの謝罪。侯爵はキッと目尻を吊り上げる。


「カルロス!」


 国王はカルロスの頭をグイッと押さえつけると、至極苦し気な表情を浮かべた。


「本当に申し訳ない。すぐにでもカルロスを処罰したいところだが、今は有事だ。必ず相応の罰を与えるから、今だけは容赦してほしい」

「――――――承知しました」

「うむ。それで、君を呼び出した理由なんだが……他でもない。マグレガー侯爵、君は妹の――――ヘレナの居場所を知らないだろうか?」


 国王はそう尋ねつつ、身を乗り出す。切実な表情だった。侯爵はゴクリと唾を呑み込みつつ、小さく首を横に振る。