「ねぇ……明日はレイと一緒に町に行きたいな。この国のことをもっと知りたいの。
これからわたしが生きて行く場所だし、もしかしたら聖女として何かできることがあるかもしれないから」


 ヘレナが言えば、レイは目を丸くし、やがて困ったように笑う。


「……本当に宜しいのですか? 
お嬢様のために試作中のお菓子も、新しい茶葉も、ティーカップやクロスだって、まだまだ沢山ご用意しておりますよ? 花のような香りがするキャンドルや、美しい絵画、本や雑誌も取り寄せていますし、お望みとあらば宮廷楽団を呼び寄せることも出来ますが……」

「ここに来て数日しか経っていないのに、手厚すぎじゃない? だけど……ありがとう。
わたしは多分、じっとしていられない性質なんだと思う。
それでも、レイにのんびりさせて貰って、すごく幸せだった。色々と用意してくれたから、楽しく過ごせたし。
だから、お屋敷にいる時間は短くなるかもしれないけど、これからも目一杯甘やかしてくれると嬉しい」


 そう言ってヘレナはふふ、と笑う。レイは目を軽く見開き、それから穏やかに細めた。


「……もちろん。精一杯甘やかせていただきます」


 レイはそう言って、至極満足そうに微笑んだ。