(婚約破棄……わたしとカルロス様が…………)


 彼が言い放った言葉を一つ一つ噛み砕きながら、ヘレナは己の置かれた状況を理解していく。


「貴様というやつは……反応の乏しい、本当につまらない女だな。だが、俺がおまえに伝えるべきことはだけじゃない。
貴様は未来の王太子妃を傷つけた重罪人だ。よって、国外追放の刑に処す」


 カルロスはヘレナを真っ直ぐに指さし、高らかにそう宣言した。


「国外追放……ですか」


 さすがのヘレナも、これにはすぐに反応を返した。


(国外追放ってあの国外追放よね? 国から追い出されるっていう……)


 ヘレナが事態を呑み込むまでの間、苛立ちながらカルロスは待った。このままヘレナを城から追い出すことは簡単だ。だが、それでは彼女の傷ついた表情を見ることができない。悲しみ、嘆き、己に泣き縋るヘレナの姿をカルロスは見たかったのだ。


「あの……ですが、聖女のお務めは如何すれば宜しいのでしょう? 国外から祈りを捧げても、恐らく効果が無いように思いますが」


 けれど、そんなカルロスの目論見に反し、ヘレナはそんなことを口にした。彼女の表情は悲しんでいるというより、いつも浮かべている困り顔に近い。チッと大きく舌打ちをしつつ、カルロスは眉間にぐっと皺を寄せた。


「聖女の祈りだと? そんなもの――――我が国には不要だ!
第一俺はおまえが本当に聖女なのか……そのこと自体が疑わしいと思っている。貴様が聖女として扱われている理由は、両親が神のお告げを聞いた――――そんな馬鹿げた証言のせいだろう?」

「そうですね。確かにそうなんですけれども……」


 カルロスの言う通り、ヘレナには聖女の証が何もない。神の刻印がなされているとか、特別な宝玉を賜っているとか、そういった客観的なものは何もなかった。


『お前たちの子供は神に愛された子――――聖女である』


 そんな神のお告げを聞いたヘレナの両親は一年前に他界してしまったし、彼女の正当性を裏付けるものは何も存在しない。ヘレナ自身にも『自分が聖女である』という確固たる自信は無かった。