「――――出て行けなんて絶対言わないけれど」

「それは良かった。本当に安心致しました」


 そう言ってレイはヘレナの手を握る。あまりにも嬉しそうな彼の表情に、ヘレナは苦笑を漏らした。


(……本当はレイの他にも人を雇えれば良いんだけどね)


 そうすれば自ずとレイの負担は減る。外に出たり、交友関係を持ったり、自分の時間を楽しめるようになる。きっと、ヘレナ以外のことにも目を向けられるようになるだろう。

 けれど、レイ以外の人間を雇うようなお金、ヘレナには無い。第一、ヘレナが今読んでいる本も、飲んでいるお茶も、資金の出所が何処かも分からないのだ。おいそれとそんな提案をすることは出来なかった。


(ううん……待って)


 ヘレナはハタと目を丸くし、レイのことをまじまじと見つめる。


「如何しましたか、お嬢様?」


 レイは首を傾げつつ、ヘレナの手をギュッと握りなおした。大きくて従順な犬のような表情に、ヘレナはふふ、と笑い声をあげる。


「いた……見つけたのよ、レイ」

「何を、でございますか?」


 レイの表情は困惑していた。ヘレナはそっと身を乗り出し、笑みを浮かべる。


「レイと一緒に屋敷のことをする人間……わたしが居るじゃない!」

「……へ?」


 その瞬間、レイが目を丸くして固まる。彼らしくない間の抜けた声に、ヘレナの唇は弧を描いた。