「勿体ない……ですか。
しかし、困りましたね。私はお嬢様のお側に居たいのです。お嬢様が出て行けと仰った所で、お側を離れるつもりはございません。私は何があっても一生、お嬢様だけのレイで居続けますから」


 そう言ってレイは穏やかに目を細める。ヘレナの心臓がドクンと跳ねた。


(そういう言い方は心臓に悪いと思うわ……!)


 ヘレナの頬が真っ赤に染まる。けれど、当の本人は屈託のない笑みを浮かべているのだから始末が悪い。
 つい先日まで婚約者がいたヘレナだが、カルロスからは『好き』だとか『可愛い』と言った言葉を貰ったことは一切ない。このため、好意や想いをぶつけられることへの耐性は殆ど無かった。


(だけど……きっとこれが、レイの本心なのね)


 邪念の混ざっていない純粋な願いだからこそ、こんなセリフが平気で吐ける。これではまるで、照れるヘレナの方が間違っているかのようだ。


(だけど、わたしだけのレイって……)


 彼の心や身体、全てを預けられたような心地に胸が高鳴る。主従だからこそ言える言葉だろうが、そこに恋慕の情や情愛を見出してしまいそうになる。


(いえ、レイのことだし、そういう意味は無いんでしょうけど)


 ふぅ、とため息を吐きつつレイを振り返れば、彼は未だ、熱心にヘレナのことを見つめていた。