「こちらをどうぞ、お嬢様」


 その時、背後からレイの声が聞こえてきた。彼は腕に数冊本を抱え、にこやかに微笑んでいる。


「最近若者の間で人気の小説です。没入感が強く、日常を忘れられるのだとか。お嬢様にもきっと、お楽しみいただけるかと」


 レイの言葉にヘレナは目を丸くした。どうやら、ヘレナがこの生活に飽き始めていると彼には既にバレているらしい。


「――――本当、嫌になるくらい有能ね」

「お褒めに預かり、光栄です」


 レイはそう言って目を細める。
 ヘレナが褒める度に、レイは至極嬉しそうな表情を浮かべた。まるで幼子が親に褒められるような――――はたまた勇者が国王から功績を讃えられるような、そんな表情だ。あんまり嬉しそうにするので、褒めた側のヘレナの方が、胸がむず痒くなってくる。


(だけど……)


 ヘレナはレイから本を受け取りながら、そっと彼を覗き見た。


「私ね――――あなたを執事にしておくのは勿体ないと思うのよ」