「相変わらず察しの悪い女だ。――――このままじゃ埒が明かないから教えてやろう。
おまえはここにいるキャロラインに嫌がらせをしたな? 俺が彼女と仲良くしていることを快く思わなかったのだろう。
侍女達に茶を用意させないよう根回ししたり、私物を盗んだり、挙句の果てに俺との関係を口汚く罵ったそうじゃないか」


 カルロスは至極冷たい声音でそう言い放つと、侮蔑するような瞳でヘレナを見下ろす。


「いっ……いえ、キャロライン様と面と向かってお話をさせていただくのは、これが初めてのように思いますが」

「そうか。ならば侍女たちの件や私物を盗んだ件は認めるのだな!」

「いえ……そちらも全く身に覚えがございませんけれども」


 答えながらヘレナは困惑していた。
 カルロスの話のテンポは早く、どこかのんびりとしたヘレナとは嚙み合わないことが多い。彼の質問一つ一つに丁寧に答えていると、せっかちなカルロスは苛立ってしまうし、すぐに自分の主張を被せてくる。だから結果的に、こうして掻い摘んで答えることしかできないのだ。


「白々しい。既に全ての調べは付いている。違うというなら、貴様が何もしていないという証拠を今すぐ出せ。できないなら、そこでおまえの罪は確定する」

「今すぐ、と言われましても……」


 侍女達ならば、ヘレナが何も指示していないと証言をしてくれるかもしれない。けれどそれでは、カルロスは納得しないだろう。そもそも最初から、ヘレナを許す気は無いのだから当然だけれども。


「そうだろう。そうだと思った。
ああ……長かった。これで俺は、心置きなく宣言ができる」


 そう言ってカルロスは、至極嬉しそうに微笑む。感慨深げな表情だ。ヘレナはキョトンと目を見開き、小さく首を傾げている。カルロスはふっと笑い声を上げながら、ヘレナの前へ躍り出た。


「まだ分かっていないようだな。良いだろう……教えてやる。
ただ今を以て、俺は貴様との婚約を破棄する! そして、ここにいるキャロラインが、未来の王太子妃となるのだ!」


 その瞬間、キャロラインは勝ち誇った様な笑みを浮かべ、ヘレナに向かって目を細める。ヘレナは未だ状況が呑み込めぬまま「はぁ……」と呟くことしかできなかった。