「――――ねぇ、レイも一緒に食べましょうよ。一人で食べると寂しいわ」


 何を考えていたか気取られぬよう、ヘレナは必死で話題を変える。とはいえそれは、紛れもないヘレナの本心だった。


(どうせなら、レイと一緒に食事をしたい)


 けれどレイはキョトンと目を丸くし、すぐに首を横に振った。


「いえ、私はお嬢様の執事でございます。一緒に食事を摂ることは出来ません」

「だけど……だけどわたしはもう、侯爵家の娘でも、王太子の婚約者でもないのよ? 一緒に食事をするぐらい構わないでしょう?」

「駄目です。私にとってお嬢様はお嬢様でございますから。
さぁ、お食事の後はデザートもご用意しております。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」


 レイはそう言ってニコリと微笑む。


(何よ……レイの馬鹿)


 目には見えない線を引かれたような心地に唇を尖らせつつ、ヘレナは食事を口に運ぶのだった。