「知らなかったわ……レイってこんなにお料理が上手だったのね」

「お褒めに与り、光栄です」


 そう言ってレイは目を細める。ヘレナも何だか嬉しくなった。


(こんなに上手なら、もっと早くに知りたかったわ)


 侯爵家には専任の料理人がいたため、レイの料理の腕前を知るのは、今日が初めてだ。
 食事をしながら、口いっぱいに幸せが広がる。レイの食事は、国内最高の料理人が作ったであろう王宮のものよりも、ずっとずっと美味しく感じられた。美しく洗練された見た目もさることながら、味付けが絶妙にヘレナ好みで、いくらでも食べられてしまう。あんなにたくさん料理が並べられていたというのに、プレートは既に半分以上空になっていた。


「レイのお料理、お父様やお母様、お兄様にも食べてもらいたかったわ。わたしだけがこんなに美味しい思いをして、何だか申し訳ないもの」


 ヘレナはそう言って目を細める。もう二度と会うことのできない家族の面影に、胸が小さく軋んだ。


「お嬢様、それは無理なご相談です」

「――――知ってるわ。お父様達は既に他界してしまったし、わたしは国には帰れない。お兄様にももう二度と会えないんだもの……」

「いえ、そういうことではございません。私の料理は、お嬢様のためだけに存在しますので」


 ですから、無理な相談なのです、と言って、レイはヘレナの前に跪いた。その途端、ヘレナの頬が真っ赤に染まる。