「お嬢様は決してダメな聖女ではございません。
――――良いではございませんか。これでお嬢様も朝寝坊の幸せを味わうことが出来ます。十七年もの間、毎日お祈りを捧げてこられたのです。少しぐらいお休みしたところで罰は当たりません」


 レイの言葉は力強く、とても温かい。ヘレナは胸に手を当てつつ、ゆっくりとレイを見上げた。


「――――ありがとう、レイ。そう言って貰えて、とても嬉しいわ。
だけど……レイに言われても、何だかちっとも説得力が無いわね」


 ヘレナはそう言ってクスリと笑う。

 本来、ヘレナの朝は早い。追放されるまでの間、着替えや洗面、手水の準備や、身支度に至るまで、ヘレナの世話は侍女達がしていた。侍女達は当然、主人であるヘレナよりも早起きをし、ヘレナのために働いてくれる。けれど、屋敷の中の誰よりも早く活動を始めるのが、他ならぬレイだった。

 侍女たちの話によると、レイは毎朝、使用人たちの詰め所に一番最初に現れ、夜遅く一番最後に去っていくのだという。その間隔は、彼が人間生活を維持できているのが不思議な程、極短時間のことらしく、ヘレナは密かにレイのことを心配していたのだ。