呼び出された部屋へと入ったその瞬間、聖女ヘレナは目を丸くした。
 目の前には自身の婚約者で、この国の王太子であるカルロスと、最近王宮でよく見かけるようになった子爵令嬢キャロラインの姿。二人はギュっと身を寄せ合い、ヘレナのことを鋭く睨みつけていた。


「一体どうなさったのですか? そんな怖い表情をなさって」


 尋ねつつ、ヘレナはそっと首を傾げる。彼等に睨まれるようなことをした覚えは、ヘレナには無かった。
 ふと振り向くと、出口は既に騎士達が塞いでいた。更に、カルロスの背後には武装をした騎士達が数人控えていて、いつでも剣を抜き放ちそうな雰囲気を醸し出している。いずれもカルロス直属の近衛騎士ばかりだ。


「……全く、最後の最後までふてぶてしい女だな。自分が何をしでかしたか、ちっとも理解していないらしい」


 カルロスは忌々し気にそう口にしつつ、キャロラインのことを抱き寄せる。ヘレナは思わず目を瞬かせた。


「カルロス様ぁ……わたくし怖いです。一刻も早くこの女を追い出してください」


 カルロスの腕の中で、キャロラインがそう言って瞳を揺らす。庇護欲を擽る見事なベビーフェイスに、豊満な肉体。キャロラインはカルロスが守りたくなるのも頷ける、魅惑的な女性だった。


「まぁ待て、キャロライン。ヘレナには自分の罪を、正しく理解させなければならない」


 カルロスはキャロラインに向けて微笑みつつ、クルリとヘレナに向き合う。


(追い出す……わたしの罪…………)


 思わぬ展開に、ヘレナの理解は追い付かない。小首をかしげていると、カルロスは眉間に皺を寄せ、小さく舌打ちをした。