「タクシーを拾って帰るぞ」

「た、タクシーですか?」

さすが金持ち、やることが違い過ぎる。

心の中でツッコミを入れていたら、
「その足で家まで帰れる訳がないだろう」

社長に言われて返す言葉がなかった。

確かに、靴擦れをしたこの足では歩くのがやっとである。

と言うか、
「心配しているんですか…?」

私は聞いた。

自分1人で全てをこなしてしまうと言う彼が意外にも他人の心配をしてくれていたことに驚いた。

脅して半ば強引に秘書にするような人間だから、血も涙もないと思っていた。

「心配するのは当然だろ、すぐにタクシーを呼ぶから待ってろ」

社長はそう言ってスマートフォンを取り出した。

顔がいいな、おい。

彼の横顔を見ながら、私はそんなことを心の中で呟いた。