「そのショックで父親は酒浸りの生活を送るようになり、酔っ払うといつも自分や弟に手をあげていたと言っていました。

母親は働かなくなった父親の代わりに働いて多額の借金を返していたけれど…躰が弱い人だったみたいで、小学校の高学年の時に亡くなったそうです。

それでも借金は減らなくて、毎日のように借金取りが家に押しかけてきて怖かった…と」

彼が語る父の昔話に私と兄は黙って耳を傾けた。

「20代の後半にようやく借金返済が終わって取引先の紹介で知り合った女性と結婚したそうです。

自分が子供の頃に大変な思いをしたから家族には大変な思いをして欲しくない、そのためには自分が働かないといけないーー門谷さんは、そう言っていました」

彼の話が終わったので、
「そ、そうでしたか…」

「ありがとうございました…」

私と兄は彼に向かってお礼を言うと、その場から立ち去ったのだった。