背中にシェイドの腕が周り、ギュっと抱きしめられた。
「もうこのまま永遠の愛を誓ってしまおうか……」
 縋るような声に笑い、リエラもシェイドの腰に腕を回す。
「駄目です。半年後に素敵な式を挙げるのを楽しみにしているんですから」
「はあ。そうだな……今から既にお義父上が不機嫌そうだ……」

 列席者の中にシェイドの両親はなく、彼の弟が婚約者と共に参列していた。
 リエラは婚約を結ぶ際に一度だけ彼の両親に会った。
 息子をダシに楽をする事だけを考えるような人たちで、シェイドが会う必要はないと何度も拒んだ理由が理解できた。

 それと同時に彼の幼少期のやるせなさを改めて垣間見てしまい、その日リエラはシェイドを長い時間抱きしめた。

『あなたは凄いわ。自分の信念を曲げず、大事な一部を切り捨てた。そんな事、誰でもできる事じゃない』

 親に逆らえない人なんて沢山いるし、ただ楽な道を選ぶ人だっている。
 ウォーカー子爵家で、子供だったシェイドは自分を守るのがやっとだったのではないかと思うと、リエラは胸が詰まって苦しかった。

 家族になるからと会いに行ったが、その次はもう無かった。そしてシェイドは両親の列席を拒んだ。事実上の絶縁宣言。
 やがて第三王子の側近であるシェイドとの仲違いにより、彼らは王都にはいられなくなり、領地へ逃げるように去って行った。

 せめてもの救いはシェイドと弟の関係が良好な事だ。次期ウォーカー子爵領は、きっと安定基盤のもと栄えていける事だろう。
 きっと大丈夫。
 だから……

「早く君と結婚したい」
「はい、私もです」

 両手を繋ぎ、神父の向かいに二人並び立ち。
 お互いの気持ちに喜び照れながら、婚約式の宣誓を告げた。


 ※


 おしまい
 
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