──喜ぶくせに……

 小さく微笑みながらシェイドの手を放すリエラに呆然とした。
 令嬢たちは皆、シェイドより良い物件が見つかると背を向けそちらに行く。

 所詮シェイドは大した事もない子爵家の息子。その程度の執着と気遣いしか受けた事がなかった。
 自分に向けていた熱心な瞳は、言葉も、仕草も全部その時限りのもので、もっと価値の高い相手が見つかればアッサリと鞍替えする。
 その度にやるせない思いを抱いてきたのだ。

 必死に相手をしていた自分が馬鹿らしくなった。
 だからその不満を父への当てつけを込めて、父が一番乗り気だったリエラに向けてしまったのだけれど──
 ……愚かな真似をしてしまったと、今は後悔が尽きないでいる。

 だって知ったのはそのずっと後だったから。
 その手がどれだけ得難いものだったかなんて……

(どうせ彼女も直ぐに別の相手に目を向けるに決まっている)

 そう思っていたのに。

 アロット伯爵家が怒るくらいに自分は彼女を傷つけたようで、リエラはなかなか他に目を向けなかった。
 その態度に最初は不満で、段々と罪悪感を覚え、それから謝罪をしたいと思うようになっていった。