「私は! 第三王子殿下の婚約者候補ですのよ! 城内においてわたくしが入れない場所などありませんし、何よりお前はたかだか伯爵家のくせに侯爵家にどれだけの無礼を働いているか理解しているの?! 伯爵家風情が、このわたくしに! ──大体! こんな医師の一人二人、わたくしの権限でいくらでも首を飛ばす事が可能ですのよ? ええこんな身の程知らず共、このわたくし自らが即刻処罰して差し上げてよ! お前たち皆! この無礼者どもが!」

 ぜいぜいと息を荒くするベリンダの口の端は勝利を確信したように吊り上がっている。今口にした事を侯爵に告げ、間違いなく実行する未来でも浮かべているところなのだろう。
 そんなベリンダを凪いだ目で見つめ、リエラはさりげなく彼女と距離を置いていたシェイドに声を掛けた。

「お聞きになりまして? ウォーカー令息」
「はい」
 シェイドは静かに頷いて、リエラに同意した。

 ベリンダはハッと息を呑んだ。
 それからあわあわと視線を彷徨わせ、今の言葉を飲み込まんとするように、口をぱくぱくと開け閉めしだした。
(……あんな剣幕を好きな相手に見られたら、それはそうなるわよね……)
 表現豊かな人である。そして盲目だ。
 リエラは呆れ半分に息を吐いた。