芹香がこの学校に編入してくるまでの、クラスの生徒から見た紗夜のイメージは「クールな美少女」でほぼ一致していた。


薄めのファンデーションと、大きな瞳がさらに際立つ仄かなアイシャドウ。


グロスで唇はいつも、艶の良い桃色に光っていた。


綺麗な赤茶色に色を染めた長いストレートの髪と無造作に揃えた前髪が異様なほどに似合い、以前芹香に揶揄された「お人形さん」のようだと、紗夜を見た誰もが容易に想像してしまう容姿。


休み時間の紗夜は他の誰かとあまり親しく話をすることもなく、大抵は物憂げに窓の外を眺めているか、鏡を見ているか、居眠りをしているかだった。


そんな綺麗な容姿に見え隠れする、どこか謎めいた雰囲気と、やや近寄り難さを感じさせる存在。


それでも「女子」としての紗夜の人気はかなり高く、上級生から下級生も含めれば、今までに十数人の男子生徒から告白を彼女は受けていた。


しかし紗夜は告白してくる相手がどんな相手であろうとも、わずかな期待を抱かせることもなく全てその場で丁重に断っていた。


とはいえ、紗夜には彼氏と呼べる男性がいるわけでもないし、密かに想いを寄せるような相手もいない。


むしろ紗夜の周りから浮いた話は、今までに一度も聞こえてくることはなかった。


そんな紗夜の見た目とのギャップに対して、周囲からは様々な憶測が飛び交うことも多く、まるで根も葉もない噂が流れることもしばしばあった。


それは紗夜に対する憧れを感じさせる善意のものから、薄汚れた嫉妬のような悪意が感じられるものまで。


しかし当の紗夜はそんな噂でさえも、まるで他人事かのように興味を示さなかった。


もはやここまで自分自身に対して関心を示さない紗夜の言動が、ますます彼女という一人の人間を謎めかせる大きな要因になっているのを、本人はいまだに知らない。


そのような話を以前、別の友人からたまたま耳にした芹香は、なぜ紗夜が彼氏を作ろうとしないのか理由を本人に直接聞いてみたことがあった。