あれから、もう一年。


さすがに使用済みではなかったが「ナプキン詰め込み事件」を皮切りに、ゆっくりと同じ時間を積み重ね、互いに友情を育んできた二人。


「初めて会ったときのあれや。水城さん呼んだの、あれわざとやろ?」


「え、だってあれ絶対フリだと思ったもん」


「フリなわけあるかい!まぁ、うち的には「こいつ、やるやないか…」思うたけどな」


「全然やらないよ。やらないし、それよりも芹香がほんとにナプキン詰めるような頭のおかしい子だとは思ってなかったよ。教科書入れても、ぽよんって戻ってくるんだよ?あんな悲鳴あげたの、ほんと赤ちゃんぶりだよ」


長いような、短いような一年。


それでも一緒にいる時間が長いこともあり、お互いのことを理解し尊敬し合える良い仲になれたという気持ちは二人とも同じだった。


そしてその無二の親友でもある芹香に、紗夜が生まれてから誰にも触れられたことのない話題。


正真正銘、初めて聞かれた「紗夜」という名前の意味。


しかし、紗夜はそれを知らなかった。


それでもこの「名前の意味」という話題に関して紗夜は、最近たまたま少し似たような話題に触れることがあったのだった。


それというのは、地元の小さな動物園で誕生したレッサーパンダの赤ちゃんの名前を一般から公募しているというローカルニュースを見ていた紗夜の父親が、テレビの前で勝手に悪趣味な命名をしたことが始まりだった。


「なぁ?このパンダの名前、ミサキちゃんでいいんじゃね?」


「…は?てか…だれ?」


父親の言葉を聞いて、露骨に不機嫌をあらわにした紗夜。


パンダ好きの紗夜の前でパンダを侮辱することは、到底許されることではない。


おおよその見当がつきながらも、それでも紗夜がなんで?と理由を聞くと「パンダ可愛いし、可愛い繋がりでミサキちゃん。普通じゃね?」と、かくも平然と答えた彼女の父親。


それを見ていた、もはや呆れ顔の紗夜。


「なに言ってんの?パンダ可愛いのは認めるけど。つーかこのパンダ、オスって言ってんじゃん。どこの飲み屋の女の子か知らないけどさ。てか…だれ?きもっ」


などと、軽い一悶着があったばかりだった。


ちなみに紗夜と父親との痴話喧嘩は、この程度のことであれば、少なくとも二日に一回くらいはあった。


毎朝、途中から紗夜と一緒に登校する芹香が、もはや不機嫌全開の表情をした彼女に出会うことも少なくない。


「なんやさーや、怖い顔して?」


「おはよ。ねぇ、ちょっと聞いてよ…!」


あぁ、またケンカしたんか…と苦笑いを浮かべる芹香。


こうして館林家の痴話喧嘩のたびに芹香の朝のひとときは、怒りのはけ口に費やされて消えていくのだった。