「てか、わざわざ学校に戻ってきてまで俺に、なんか用事でもあるのか?」
思い出したかのような素振りを見せて、コクコクと頷く芹香。
「そうやった。うちな、さっきのたっくんの話聞いて、色々と決心したことあったんよ。その話しするために来たんや」
「決心?」
芹香の言葉を聞いて、眉をひそめた拓人。
「うん。でもその前に聞かせてほしいんやけど、さーやのママってどんな子やったん?」
さらに訝しげに芹香を見た拓人。
「どんな子?美月がか?」
「うん。なんか写真とかないん?どーせ女々しいたっくんのことやから、財布にでも忍ばせてるんとちゃうか?」
さらりと嫌みを言われた拓人だが、いつもとは少し違う芹香の行動には彼女なりの重要性があるのだろう…と感じ、そこはあえて触れず、あえて拒むこともしなかった。
「ああ、写真ならあるけど…。ざんねーん、定期入れでしたー」
デスクの下に閉まってあった自分の鞄を取り上げながら、拓人が意地悪そうに言い放った言葉。
それを聞いた芹香の気持ちは「ここまでシンクロする親子もほんま珍しいな…」だった。
「ちょっと待ってろ…。てか美月な、色白でモチみたいに透き通っててな…」
それを聞いた芹香の気持ちは「いや、それさっき聞いたわ…」だった。
(なんや、お年寄りか…!)
心のなかで突っ込みを入れた芹香だっだが、たぶん今の言葉は拓人なりの思いやりなのだろうとうすうす感づいていた。
芹香に笑ってほしい。
ただ、それだけのための冗談。
芹香がどんな大事な話をしにきたか聞くわけでもなく、なぜか拓人は彼女の気持ちにずいぶんと寄り添ってくれている。
それは多分、ここにきてからの芹香がいつものように笑えていなかったからだろう。
(なんやのほんま…たっくんのくせに…)
拓人の思いやりに思わず頬を小さく緩めた芹香をよそに、鞄から定期入れを見つけた拓人は、その中から一枚の小さな写真をそっと取り出して彼女に差し出した。
「ほら。こいつが、紗夜の母親だ」