―――――


「たっくん。さっきは悪かったな…帰ってしもうて」


職員室にやってきた芹香は、近くにいた教師に頼んで拓人を呼んでもらった。


突然の思わぬ来客に拓人は、やや困惑しながらも自分の席に椅子を一つ用意して彼女を座らせた。


今は授業も終わり、部活や補習に出ていった教師が多く、辺りを見回しても職員室には人がまばらだった。


「いや、それはいいけど…水城、大丈夫か?目、真っ赤だぞ…」


心配そうな様子を見せる拓人に対し、眉をひそめて声もなく笑った芹香。


「うん。家帰って少し熱冷まして、だいぶ落ち着いたわ。てか、あのあとさーやは大丈夫やったん?」


芹香の言う「あのあと」とは、彼女が教室から出ていったあとのことだろう。


「あぁ。化粧もなんかとれちまって、チャイムが鳴ったらあいつも走って出ていったぞ」


笑顔で答えた拓人の言葉は、おおよそ芹香も予想してた内容だった。


厳密には、拓人の話が終わってほどなくしてチャイムが鳴り、慌てた紗夜は顔をひた隠しながらトイレに駆けていった。


「たっくんが急にあんな話するからや。さーやのこと大好きだとか大切だとか」


意地悪な笑顔で、拓人を伺う芹香。


「まぁな」


それに対して拓人は、もはや照れもせず、さらに意地悪な笑顔で返してみせた。