「なぁ?お前が一緒に帰りたいとか言うなんて、なんか気味悪いな…」
拓人の隣には、俯いた紗夜の姿。
長い髪で隠れた紗夜の耳は、真っ赤になっているのを拓人は知らない。
「う、うるさい…」
父娘二人で並ぶ、夕暮れの帰り道。
言えるわけがなかった。
あの話の後から、紗夜が「少しでも拓人を大事にしたいと思った」からだなんて。
「…なぁ、紗夜?」
恥ずかしさのあまり、ずっと顔を落としたままの紗夜。
「お前、水城の友達だろ?」
突然の話題に紗夜は、思わず顔を上げた。
「はっ?何よ急に。芹香がどうかした?」
拓人は頭を掻きながら、気のない素振りで話し始めた。
「あいつな。かなり悩んでるみたいだぞ」
「…え?」
「さっき職員室の俺んとこ来て、少し話したんだけど。話し終わったら急に泣き出して『ありがと…』って言って出てったんだ」
拓人を訝しげに見つめる紗夜。
「え、芹香どうしたの?よくわかんない。芹香泣いてたの?」
眉を潜め、難しい表情を浮かべた拓人。
「ああ。泣いてたな。そん時のあいつ見てたらなんか…昔の美月を思い出したよ」