―――そして、約束の日。
俺は、長瀬の家へ向かっていた。
美月の親父さんには事前に連絡をして、訪ねる時間を伝えてある。
まだ学生だった俺は、黒の制服姿に菓子折り一つを携えていた。
俺の心は、驚くほどに落ちついている。
美月が亡くなって、今日で十四日。
遅すぎたけど、ようやく彼女に本当の「ありがとう」を伝えられる。
それでもまだ、美月を失った悲しみがすべて消えたわけじゃない。
たぶんこれから先の人生は、美月のいない悲しみと共に歩むのだろう。
時には悩んだり苦しんだり、なにもかもが嫌になって、また失意のどん底に戻ったりすることもあるかもしれない。
それでも俺は、立ち止まらない。
立ち止まれない、理由を見つけたから。
……
長瀬の家の前では、すでに親父さんが立って出迎えてくれていた。
腕組みをして、やや物々しい表情だったが、俺の姿を見るとほんの僅かだけ頬が緩んだようにも見える。
「答えはでたのか?」
親父さんの第一声。
俺は親父さんの目を見て、背けなかった。
「はい、ご心配をおかけしました」
深々と頭を下げた俺はそのまま、ありったけの思いを言葉に込めて、親父さんにぶつけてやった。
「紗夜を、迎えにきました」