「ありがとう。ほな、あんたの名前聞いてもえぇか?」
芹香の問いかけに、ようやく気づいたかのように体をむくりと起き上がらせた紗夜。
「あ、ごめん。私は館林、館林紗夜」
「「さーや」か。なんや名前も可愛いんやな。うちはさっきも言うたけど、水城芹香。さーやはもう友達なんやから、うちのことは「せりか」でええからな」
ニコニコしながら話を続ける芹香。
「あ、でもな。間違うても「水城さん」なんて呼び方したら、机に使用済みナプキンぎゅーぎゅーに詰め込んだるからな」
芹香の言葉に、再び目を丸くした紗夜。
「えっ、あ、うん…」
とりあえず、返事をしてしまった。
「あ、うん…、ってなんやねん!もしかしてさーやは、意外と真面目なん?」
芹香はなぜか嬉しそうに、ニコニコと緩んだ表情を浮かべている。
この時初めて紗夜は「喋らなければ、本当はすごく可愛い子なのに…」と、失礼ながらも芹香を少し残念に思った。
「え?そうでもないと思うけど…」
なぜなら紗夜は、芹香と出会ってまだ数分しか経っていない。
まともな会話のキャッチボールだって、ものの数回しかしていない。
そんな、ほとんど初対面と言ってもいいような相手から、ここまでハードルの高い会話でグイグイと迫られた経験が紗夜には初めてだった。
(なんかすごいな…。関西の子って、みんなこうなのかな…)
完全に芹香のペースに押され唖然としていた紗夜へ、にこやかに微笑む芹香から差し出されたのは、彼女の色白な細い右手。
「ま、ええわ。これからゆっくり仲良くしような。よろしくな、さーや」
やや躊躇いを感じながらも、紗夜がおずおずと触れた白い手の感触はとても柔らかで、少しひんやりと冷たかった。
「よ…よろしく、水城さん」

