――そして、七日目の夜。
今日もまた、いつもと同じ見慣れた部屋。
俺はなぜか、酒を飲みながら泣いていた。
俺の傍には、あの女の子がこちらに背を向けて、パンダのぬいぐるみと二人で遊んでいる。
すると、不意に振り返った女の子が言った。
「ぱぱ…どうして泣いてるの?」
あぁ、なんでだろうな…。
最近は仕事もうまくいかない。
働いても働いても、生活は一向によくならない。それなのに疲労は溜まるばかりだし、ストレスはひどくなる一方で。
それに第一、アイツがいない…。
色んな悲しみが混ざりあって俺は、一人でメソメソ泣いていた。
「なんでだろうな…」
そう答えた俺の頬にまた、涙が一閃零れた。
そしたら、俺のことを心配そうに眺めていた女の子の様子が急におかしくなった。
みるみると顔を歪ませ、大事なぬいぐるみを小さな手で握り締めると、今にも泣き出しそうな表情に変わっていく。
「やだよ、なかないで、ぱぱ…」
女の子はぼろぼろと涙をこぼしながら、俺に無理やりしがみついてくる。
いやだ、いやだ、とまるで呪文のように、何度も繰り返す言葉。
俺を慰める女の子。
俺のために泣いてくれる女の子。
思えばこの女の子は、俺が嬉しい時はコロコロと一緒になって笑ってくれた。
そして今もこうして、俺が悲しい時は俺よりも悲しい顔で、一緒になって泣いてくれる…。
その時、ふと感じたよ。
俺を「ぱぱ」って呼ぶこの女の子が誰なのか、本当はうすうす気づいてた。
気づいてながら、なんで俺はこの女の子を平気で泣かせてんだろう…ってな。
俺は、俺自身の弱さが憎らしかった。
でもその反面、俺の涙を分けあってくれる女の子の存在が無性に愛しくて、胸が痛むくらいに嬉しかった。
だけどよ、よく考えてみればそんなの、当たり前なんだよな。
俺とこの女の子は、ただ偶然夢の中で出会ったわけじゃない。
同じ一人の女性を通じて、どこにいても、いつになっても繋がり続ける「家族」だったんだよ。
その時、俺は決心した。
美月が、命を捨ててまで残した命。
今度は俺が絶対に守ってみせる、ってな。
「…ありがとう」
泣きむせぶ女の子の柔らかな髪を、どうしようもなく俺は優しく撫でる。
「…ぱぱ…ないちゃやだ…」
大丈夫だよ。
もう、大丈夫だから。
そして、まだ名前のない女の子を強く抱きしめながら、今度は世界で一番大切な娘に、なにか美月の面影を残してやろう、って決めたんだ。