俺は、親父さんの顔を見た。


なんとも言えない複雑な顔で、俺に首を横に振った。


その行動に何の意味があったのか、俺は一瞬で理解した。


解りたくもなかったけどな…。


されるがままに、再度振り向かせられる俺。


目の前にはまた、俯いた医師たちに囲まれた、白い姿の美月。


難しく例えていうなら、死を孕んだ暗くて冷たい空間…って感じかな。


目の前にあるその光景ってのがな、俺にとってまさに…完璧なまでの「絶望」だった。


俺はもう、どうすることもできなかった。


だってよ、俺だって今のお前らと同じどこにでもいるような、ただの高校生だぞ?


それが急に大好きな女の子…嫁さんが亡くなって、その子が死んだ姿で目の前に横たわってるなんてよ…。


ほんと、理解できねぇって。


だから俺は、わけもわからず眠ったままの美月の手を布団の中から探して、静かに握ってみたんだよ。


そしたらなんかガサガサで、氷みてーに固くて、冷たくてな…。


それでも俺は、どうにか笑顔を振り絞って美月にそっと話しかけた。


「よく頑張ったな、美月…」


「疲れたろ?眠いだろ?」


「ほんと、ご苦労様…」って。


何度も、何度も。


綺麗な顔のまま全然起きてくれないし、まるでピクリとも動かなかった。


そんな美月の様子を見てたら俺、もうどうしたらいいのか分かんなくなって。


足も体ももうガタガタ震えてくるわ、だんだんと息苦しくなってくるわ。


んでよ、わけもわからないまま、思わず美月の頬に手を触れてみたんだ。


その瞬間、息が止まりそうになった。


突きつけられていた残酷な現実ってのを、どうやらもう受け入れるしかないんだな…って、その時ようやく理解した。


冷たかった…。


それになんか…美月の肌が骨みたいに硬くて、よく見たら唇が不気味なまでの紫色になってた。


もう…とてもじゃないけど、生きた人間の姿には見えなかったよ…。