出産が終わってから、数十分後。


誰に知らされることもなく、静かに病室へと移された美月。


ようやく面会が許された俺は、彼女のいる病室へと案内された。


そこへ向かう間も俺は、さっきの医者の言葉がぐるぐると頭の中で回っていて、まるで実感が沸かなかった。


―――お母さんのほうは残念ですが…お亡くなりになられました…。


出血多量の、ショック死だったらしい。


病室の中央に見えたのは、シワの一つもない真っ白な布団をかけて、ベッドに横たわる美月。


その周りには、彼女を見下ろすように俯いた医者と数人の看護師。


美月のお母さんは、美月の親父さんにしがみついて、むせび泣く声を必死に殺していた。


そして彼女の一番近くには、俺がいる。


顔を見ただけだと、まだ寝てるだけのような美月の顔が、まるで血が無くなったみたいに青白く見えた。


んでよ、その時俺のそばに近づいてきた一人の看護師の言葉。


今でも、はっきりと覚えてる。


―――奥さんね、すごい頑張ってたよ…。


…そっか。


美月…よく頑張ったな。


―――あなたと赤ちゃんのために…って、ずっと頑張ってたわよ…。


ありがとな、美月…。


ほんとお疲れ様…。


―――だから、少し休ませてあげようね…。


そう言われた俺。


なんかだ少し、ほっとしたわけよ。


こんな絶望的な雰囲気にいながら、少し休めば美月が目覚めるんだ…って、勝手に解釈しちまってな。


「はい…」


俺はそう言って振り返り、病室を出ようとした。


ただ、出たかった…。


ここには、いたくなかった…。


なかば気づいてた俺は、美月がいるこの場所が不快にさえ感じてた。


誰にも止められず、その場から離れたい。そうしないと俺は、知りたくもない現実を知らなきゃいけなくなる。


そしたらもう、どうにかなってしまいそうで…怖くて仕方なかった。


頼むから、誰も…止めないでくれ。


そう祈りながら、歩を進めようとした俺。


そこで、俺の肩に手を添えて、非情にも立ち止まらせた人がいた。


…美月の、親父さんだよ。