「あ、たっくん起きたん?」


眠りから覚めた館林拓人はゆっくりと顔を上げ、しょぼしょぼと焦点の定まらない目を、何度も瞬かせて声の主を探した。


「…あぁ、大分よくなった。って、お前ら結局遊んでんのかよ…」


紗夜と芹香は自分たちの席から離れ、教壇の近くで向かい合うようにして座っていた。


二人はそれぞれが、両手にトランプを花のように咲かせている。


拓人が他の生徒を見渡すと、言いつけ通りに自習する者もいれば、彼に倣い眠りにつく者、スマホを操る者もいて様々だった。


「たっくん、今日はもう無理せんでええよ。てか、なんやの?朝帰りもせんで、二日酔いのまんま仕事に来よるとかって…。ほんま心配して損したわ」


知るはずもない芹香から、まるで「一部始終を見とったよ」と言わんばかりの正確な指摘をされ、思わず一瞬たじろいだ拓人。


いや。水城がそんなストーカーじみたことを、わざわざするはずもない。


考えてみれば、簡単なことだった。


拓人が今朝、家に戻っていないことを知る人物は、一人しかいない。


その事実を芹香に遠慮なく告げ口したのは、自分の手札を見ながら不気味にニヤついているあの…バカ野郎な娘しかいなかった。


現に拓人は、昨晩から友人と行きつけのバーで散々騒ぎ、酔い潰れてカウンターで寝込んだ挙げ句、明け方になって店から追い出された。


目眩もするし、吐き気もひどい。


それなのに、なぜか重い足取りは、そのまま学校に向かっていたのだった。


拓人は最悪、病欠で休むことも考えた。


だが、それを良しとしない、らしくもない自分がどこかにいて、足を止めようとは思わなかった。


しかし、ここにきて女子高生…ましてや教え子でもある芹香に、こうもぐうの音もでない説教を食らうとは思ってもみなかった。


その上、芹香は本気で自分の体調を心配してくれていたらしく、その気持ちを仇で返すハメになってしまった拓人は、さすがに縮こまるしかなかった。


それでも反面、編入生でありながら学級委員にも選ばれる芹香の人当たりの良さと、その責務を積極的にこなす彼女の成長が、教師として素直に嬉しくもあった。