「うーん、なんやろな…」


芹香が首を傾げながら呟いたその時、廊下を歩く人の足音と、声がかすかに聞こえた。


よく聞くとその声は、話し相手のいない…独り言のように聞こえる。


その声に反応するように、生徒たちは周囲のクラスメイトと見合いながら一人ずつ一人ずつと声を潜め、ついには先ほどまでの教室のざわめきが煙のように消え、しんと静まり返った。


そのせいで、廊下から聞こえる誰かの…というより、この状況であれば既に察しはついていたが、その独り言が教室のどこにいてもはっきりと聞き取れた。


ヤバイなこりゃ…


あっ、これ無理だわ…


その声と言葉を聞いた、神妙な面持ちの紗夜は、ただ不安しか感じられなかった。


そして足音が止むと、妙な静けさに包まれた空気を破り、がらがらと音を立てて教室の戸が開く。


そこには、しかめっ面を露骨に浮かべた男性の姿があった。


生徒全員の視線を一点に集めながら、はっきりとした足取り…と本人は思っているのかもしれないが、明らかにふらつきを堪えながら教壇までたどり着いた男性。


その、第一声。


「遅れて悪い。先生な、今日ちょっとな、体調悪いから、授業なしにする。自習だな…」