――――――――


残暑の気配が少しだけ残る、雲一つない青々とした快晴の空。


それは九月も終わりに近づいた、ある日の朝の出来事。


紗夜が通う常陸那珂高校のニ学年フロアには、いつもとは少しだけ毛色の違う話題がひそひそと飛び回っていた。


その話題とは、今日から同じ学年に新しく編入生がやってくるらしい、というような内容だった。


「おはよー……って、えっ…な、なに?」


今日はいつもより、ほんの少しだけ遅く登校してきた紗夜。


教室に着いた彼女はクラスの友人に真っ先に捕まえられると、嫌でもその話題を耳にさせられることになった。


「へぇー、そうなんだ…」


ここ最近ではかなり熱い話題であろうそれを聞いた紗夜だったが、彼女は正直なところ、編入生に対してあまり興味をそそられなかった。


友人には「どんな子だろうねー」と当たり障りのない相づちは打つものの、紗夜の表情や素振りにはいつもと変わった様子はあまり見られない。


「あはは。紗夜クールすぎ~」


そんな彼女を見て、友人は笑った。


そんなことを言われても、新しく編入生がきたからといって学校生活が大きく変わるわけでもないし、そもそも男か女かもわからないし、ましてや顔だって知らない。


ついでに言うと紗夜は、今朝家を出る前に家族とくだらないことでケンカをしてきたせいで、いつもより少しだけ機嫌がよくない。


そんな理由が重なったせいもあってか、あまり他の生徒たちと同じように、純粋にはしゃぎたい気分にはなれなかった。


どうせいつもと同じ一日が始まって、いつもどおり終わっていく。


紗夜は静かに、そう思っていた。


……


朝礼を伝えるチャイムが鳴り響くと、しばらくして教室に担任の教師がやってきた。


そして少し間を開けて、教師の後ろには見たことのない…例の編入生らしき女性の姿があった。


(編入生って、うちのクラスだったんだ…)


親の仕事の都合ではるばる京都から引っ越してきた、という担任からの軽い紹介を受けた編入生の女の子。


彼女を少し遠目に見て、紗夜がまず最初に感じた印象。


それは素直に「すごく綺麗な子」だった。


「名前は水城芹香いいます。今までは京都の二条ゆーとこに住んではりました。わからんこともたくさんありますが、皆さんこれからよろしくお願いします」


短いながらもはっきりとした口調と可愛らしい声に加え、不思議な違和感をたっぷりと漂わせた芹香の挨拶。


自己紹介が終わると芹香は、心地よい程度のざわめきと、クラス全員の好奇な視線に迎えられていた。


それに芹香は、やや緊張ぎみにも思える控えめな笑顔を浮かべて応える。


「じゃあ水城の席は、一番後ろの空いてる席だな。黒板の字は見えるか?」


彼女は、にこりと愛らしい笑みを返した。


「はい。目はええので」


そう言って芹香は指示された席に着くと鞄を広げ、真新しい教科書やらポーチやらを机に押し込める。


そんな彼女の姿を、頬杖をついたまま隣の席からぼーっと眺めていたのが、館林紗夜だった。