「もしそうだったら最悪じゃない?てか、ちょっとは真面目に考えて欲しいよね。なんで「子供が可哀想…」とかって思わないんだろ?」
ふと紗夜の脳裏に浮かんでいたのは、あの時のレッサーパンダ。
名付け親が拓人だとしたら、レッサーパンダはある意味自分とは姉妹になるのだろうか?
でも弟がパンダだったら、なんだか少し嬉しいような気もする。
毎日寄り道なんかしないで、急いで弟が待つ家に帰るし、エサをあげるためには少しバイトでもしなくちゃいけないのかな?
てか、その前に「レッサー」ってなんなんだろ?
レッサーって、いらなくないかな?
そんないつもと変わらない思考と感情が、紗夜の頭をゆっくりと巡っていた。
「…あ、でもさぁ。初カノはないよ。アイツがそんな未練がましいこと、するわけがない!」
思わず「わけがない!」の語尾だけ荒げてしまった紗夜の声に、他の生徒も数名ちらりと彼女に振り向いていた。
それでも紗夜は、そんな視線などお構いなしに「どうだ!」と言わんばかりのキリッとした力強い眼差しで芹香に訴えかける。
そんな、いつになくムキになって抵抗してくる紗夜を見て、芹香はまた悪戯な気持ちでにんまりと笑顔を返してくる。
「そんなん、わからへんやん。ああ見えて意外とナイーブかも知れへんし」
今度は言葉もなしに、はぁ?という顔で応える紗夜。
「アイツのどこから「ナイーブ」なんて言葉が出てくるのよ。シャンプーじゃあるまいし」
本人はきっとムキになって嫌がるだろうが、恐らくこの古くさい微妙な親父ギャグも立派な父親ゆずりなんだろうなと、違う意味で笑いをこらえた芹香。