紗夜と一緒にホラー映画を見に行った時は、隣で八割がた目をつむっていたし、初めて本格的なクラシックのコンサートを聴きにいった時は、始まってから十分で眠りについていた。
あと、これはたぶん父親の影響だろう。
たまに紗夜が言ってくる冗談が微妙に古くさくて、意味がよくわからない時がある。
初めて出会った頃には気づかなかった紗夜の知らなかった姿が、付き合いが増すごとに一つ一つ露わになっていく、どこか官能的にも似た感覚を芹香は密かに愉しく感じていた。
そんな見た目とは裏腹に、知れば知るほど人間味あふれた愛らしさを持っている紗夜。
静かにしている彼女も可憐で魅力的だったが、どちらかと言えば笑顔の似合う彼女のほうが芹香は好きだった。
しかしそんな紗夜の本当の姿とは別に、何よりも芹香が彼女に惹かれていった一番の理由がある。
それは、嘘や裏表のないこと。
人間として紗夜が持つ「素直さ」だった。
それは、一年前のこと。
実を言うと芹香は、今のこの高校へ編入することに対して、不安が全くなかったと言えば嘘になる。
時期はずれの編入というリスクだけでなく、すでに出来あがった友人仲間のコミュニティに自分はすんなりと受け入れられるだろうか?
ただでさえ言葉の壁があることを、芹香自身はもちろん理解している。
そんな一抹の不安を抱えた矢先に、この学校で初めてできた友人。
偽ることのない姿勢で芹香に興味をぶつけてくれた紗夜だからこそ、それに対して彼女は素直に応えることができた。
裏表のない紗夜だからこそ、芹香も気兼ねなく遠慮のない本音で話すことができた。
出会いのインパクトはなかなかに強烈だったものの、芹香は紗夜と知り合えて…彼女がいい子で本当に良かったと、心の底から運命というものに感謝していた。
ありのままの自分を全てさらけ出せる相手が、ただそばにいてくれること。
そんな些細なことへの喜び。
そして、安心感。
出会ったあの時に感じた「なんか好きやな」の一線をいつのまにか超え、一緒の時間が増すごとにそれは「めっちゃ好きやわ」に変わっていく。
そして密かに紗夜との友人関係は、芹香にとって誇らしくもあり、今ではそれが自慢にさえ思えるようになっていた。