「…え?」
館林紗夜は思う。
芹香の話は、どうしていつも突然なんだろうか…と。
芹香とは、いま紗夜の目の前にいて、満面の笑顔で彼女の返事を待っている、友人の水城芹香のこと。
普段からいつも明るい彼女なのだが、振ってくる話題がおおよそ想定外なことが多くて、紗夜でさえも話の意味がよく理解できないことがあった。
しかし、今回はなんとなく違う。
紗夜の脳裏に真っ先に浮かんだのは、いつもの「芹香の話が意味不明」というよりも「どうして芹香が、今さらそんなことを私に聞いてくる?」という素朴な疑問だった。
もしかしたら、たまたま自分が聞き間違えたのかもしれない。
紗夜はそう思い、念のためにもう一度だけ芹香に聞き返してみることにした。
「え、なに?どーしたの、急に」
「んー、せやからぁ。さーやの「紗夜」って名前ってな、どんな意味があるん?」
紗夜の聞き間違い、ではなかった。
明るい栗色に光る、ふわふわとしたロングヘアに軽いパーマを掛け、色白な素肌と長い睫毛が魅力的な芹香。
その雰囲気はまるでどこかのお姫様のように可憐で、整った顔立ちは上品で愛らしくもある。
しかし誰もが印象的に思うのは、そんな芹香の麗しい見た目よりも、その風貌にはまるで似つかわしくもない、とても流暢な関西訛りだった。
昨年の夏、両親の仕事の都合でこの新潟県に引っ越してきた水城芹香は、生まれも育ちも生粋の京都の人間。
関西なんていうのは言葉も素振りも乱暴な人が多く、怖い人しか住んでいない場所だという紗夜の田舎じみた身勝手な偏見を、色んな意味で裏切ってくれた編入生の芹香。
「館林紗夜」と「水城芹香」
生まれた場所も、育った環境もまったく異なる二人。
その二人が同じ高校に通うこととなり、初めての出会いを経て、席を隣にしたあの日から。
お互いに特別な意識をしたわけでもない。
それなのに、どこかで少しずつ惹かれ合っていった二人。
そして、今の「親友」というかけがえのない関係を築き上げることは、この二人にとってそう難しいことではなかった。