世界中に溢れる"美しい"を、ぜんぶ。


そのとき、後ろの戸が音を立てた。


速くなる鼓動を抑えて、ゆっくりと振り向く。


そして、彼の姿を認めた瞬間、涙が一粒零れ落ちた。


「……凪くん」


白銀の美しい髪。

果てしない海のように澄んだ瞳。

触れたら消えてしまいそうな儚さを纏う彼は、微笑を浮かべてあたしの隣に座った。


「……凪、くん」


嗚咽混じりの震えた声が洩れる。


「リンちゃん」


彼の手が頬に添えられる。

雪のように冷たい彼の手。


「……泣き虫だなぁ、リンちゃんは」
「泣いて、ないから」
「分かるって。見えなくても」


凪くんは、ふ、と息を吐いた。

そして、あたしの目をまっすぐに見つめ、視線を絡ませる。


「……凪くん」


凪くんが口を開くより先に、あたしは声を出した。

凪くんの目が僅かに見開かれる。